さいごにおもうこと

地震があった。
ちょっとびっくりするくらい、大きな地震だったと思う。
最初に思ったのは、これで死ねるかな、だった。
死ねるといいなって思った。
揺れが収まって、死ねる可能性が低くなった時、ふと思ったのは、どこでどうやって死にたいか、だった。
どうせ倒壊する建物の下敷きになるのなら、大好きな本に囲まれて死にたい。
そう思って、外に出る支度をした。
家を出る時、頭に浮かんだのは、実家に独り残されている愛する彼のことだった。
彼は大丈夫だろうか。
独りきりで、怯えて、ないていないだろうか。
おもったのは、それだけだった。
いざという時、私が思い浮かべるのは、それだけだった。
それで全部だった。
それが、今の私の心に在る全てだった。
本当に、それだけ。
だけど、私は、地震が起きてすぐにストーブを消した。
それから数瞬後、電気が落ちていることを悟って、外に出てすぐに大家さんの家に行って話をして状況の確認をした。
ガスの元栓を締めて実家に行く道すがら、近所の状況を確認し、特に避難が行われてないことを脳が確認してた。
彼に会うついでに、実家の電気が生きているかを確かめ、いざという時のために彼を外につないだ。
役所で働く母の所へ行き、現状を報告、ロビーに置かれたテレビを見て地震の全容把握に努めた。
本屋に行くついでに、道すがらある病院に寄った。
この状況なら開いていれば空いているだろうし、そろそろ薬もなくなるから丁度良いと頭が計算してた。
そうやって、思うこととは別に、頭は考えて行動してた。
そして、まだ、私は生きてる。
今日この日が、こんな呪われた日になったことが、嬉しい。
不謹慎だと分かっていても、この日が今日であることが、何より嬉しい。
だけど、きっとどこかでは、誰かが死んでる。
それでも、私は、生きてる。
それが悲しい。
誰かが死んで、私は生きてる。
呪いなら、天罰なら、どうしてこんな私の上には降らないんだろう。
嬉しくて、少し、悲しい。
そうして、私は、まだ生きてる。