死んでいく人と、置いてかれる人と

どうやら亡くなったのは母のお兄さんみたい。つまり私の叔父さんね。
道理で母さんが日がな一日泣いてると思った。
ちなみにその叔父さん、私は生まれてこの方一度も会ったことないので亡くなったってなんとも思わないんだけど。
うちは親戚付き合いが狭くて、母のお兄さんが4人いるんだけど、そのうち2人までしか会ったことない。
しかもうち1人は1,2度しか会った事ない。
父の兄弟はお兄さんが一人で、しかも本家だから毎年田舎帰るたびに泊まらせてもらってるんだけど。
でもそのくらいの範囲しか付き合いがないわけですよ。
狭いもんだ。


ちなみに母方の家族は、祖父は母が高校生の時に既に病気で亡くなっていて、もう結構な歳の祖母と、高校を卒業するなり家を出て行った兄二人と、田舎で就職して結婚して時々祖母の面倒をみにいっている兄二人と、母の6人。
あとは祖母の兄弟がちょこちょこいるらしい。一人しか会った事ないけど。
祖母は何年か前に心筋梗塞かなんかで倒れて、それ以来足を悪くして通院生活を送ってるみたい。
小さい頃は、叔父さん達があんまり好きじゃなかった。
会った事ない人たちも含めて。
もう年老いたおばあちゃんを一人きりにして、寂しい思いをさせてる叔父さんたちが好きになれなかった。
おばあちゃんはいつも田舎に帰る度に、孫の私達に本当に良くしてくれて、気を遣ってくれて、ずっといて欲しいって言ってた。
心筋梗塞で倒れてからは、自分はもう長くないと思ってるみたいで、多分実際そうなんだろうけど、毎回帰る度に泣きながら「来年まで頑張って生きるから、来年も会いに来てね」ってお別れする。
昔はもっと元気で、一人で山に住んでて、畑を耕したり、カラオケ大会に出たりとかしてたのに、ここ数年はずっと自由に一人きりの集合住宅から出ることも出来ずに暮らしてる。
そんな姿が切ない。
だけどやっぱり、私もおばあちゃんを一人きりにしてる人の一人で、年に一度会いに行くのが精一杯で、だからきっと、私には誰も責める資格なんてないんだと、大人になってようやく分かった。
高校生になってからは家族揃って帰ることはなくなったけど、それでも毎年私がなんとか一人でも帰ろうとするのは、もうおばあちゃんがきっと長くないから。
きっと、あと何回かしか会えないから。
私にしてあげられることなんてほとんどないけど、せめて年に一回顔を見せてあげることだけはできるから。
そんなことしか、今の私にはできないから。


帰ってくるなり母が泣いていて、事情も聞けずにいた妹は、「もしかしておばあちゃんが死んじゃったんじゃないか」って言った。
私は「まさか」って言ったけど、その可能性はゼロじゃないことに気付いて、なんだか怖くなった。
私は知人に死なれた経験がない。
散々自分は自殺未遂とかしておいて卑怯だと思うけど、置いていかれる辛さを、私は味わったことがない。
だから、親しい人や家族に亡くなられた人にどう接していいのかわからないし、結局何もできずに、何も言えずにいてしまう。
家族が大嫌いだった頃は、いっそ誰か死ねばいいのにとさえ思った。
そうしたら私だって肉親に死なれる気持ちがわかるのにって。
でもそういうことじゃないんだよね。
私には、死ぬほど辛い気持ちは、きっとちょっとだけわかるけど、死なれる気持ちはわからない。
だからきっと、平気で「死にたい」なんて言えるのかな。
酷い人だよね。
おばあちゃんが死んだのかと思って、凄く怖かった。
私が死のうとしてたとき、同じくらい怖い思いをした人が、きっとどこかにいたのかもしれないと思った。
ごめんね。
でも私はまだ、自分の生きてる未来を考えることができずにいる。
今はもうきっと、死にたいわけじゃないんだけど。


母方の祖母や、父方の祖父は、もうかなりの歳で、自分はもう長くないと口癖のように言う。
私と違って80以上も生きれば大往生と言えるのかもしれないけど。
それでもできれば、まだ死んでほしくないんだ。
きっと死んでいいと思える時なんて、一生来ないけど。
時々考える。
祖母は、今まで生きてきて幸せだったのかな?
死ぬ直前に、いい人生だったって、思えるのかな?
そうじゃなかったらなんか悲しい。
長く生きることが必ずしも良い事だとは、今の私には思えない。
だから、お土産のお守りに、何を買おうか散々迷って、厄除けにした。
でも、祖母が泣きながら「来年も会おうね」って言う姿を見て、祖母が死んだかもしれないって思って、長寿のお守りにすれば良かったって心底思った。
お守りなんて、なんの役にも立たないけど、それでも。
出来るだけ長く生きていて欲しいと思うのは私の我が侭だけど、来年もまた会いたいと思うのはきっとおばあちゃんも一緒だよね?
私にできることはほんのささいなことで、そんなことなんかじゃ祖母を幸せになんてできないけど、だけど、せめて出来ることをしよう。
生きているうちにね。
とりあえず、私もまたおばあちゃんに会えるように、頑張って生きるよ。
置いていかれるのが怖くて、いっそ先に死んでしまおうかと思った馬鹿で弱い自分を笑い飛ばしながらさ。