小話

今回の旅で、分かったことがある。
それは、私はどうしようもなく馬鹿で、どこまでも後ろ向きな人間だってこと。


父の実家に泊まった。
幼い頃から何度も訪れているその場所は、いつの間にか少しずつ昔とは変わっていた。
母の実家は、しばらく祖母の兄弟が住んでいたけど、今は空き家になっているらしい。昔の影もなく荒れ放題だと話に聞いた。
両祖父母とも、昔よりずっと老いていた。
あと、何回元気な姿を見られるのだろう。急に不安になった。
いろんなものが変わっていく。
それは私だって同じだ。
だけど私の心は、今もずっと過去に閉じこめられたまま。
昔と変わらず、弱く醜い。
それを嘆いた時もあった。
今もずっとどこかで嘆いてる。
どうして私はいつまでもこんなどうしようもない人間なんだろう…?って。
昔の友達と言うのは私にはあまりに少ないけれど、高校時代の友達に会う度、大人になっていくのを感じる。
誰しもが成長してるのに、私だけが取り残されていくような感覚を感じる。
だけどそれは間違いだった。
立ち止まったのは私。
ずっと、この場所に留まろうとしていたのは私自身だったんだ。


変わっていくものや人を見て、悲しいし寂しいと思った。
昔の光景が、とても懐かしく思い出された。
昔は良かった、なんて言葉は言えない。
私は今が一番幸せだって分かってる。
けど、どうしようもなく懐かしいんだ。
小さい頃、良いことなんてほんのちょっとしかなかった。
明日なんていらないと願った。
中一の時引っ越して、世界が変わった。
幸せだと思った。
だけどどうしようもなく、昔住んでた場所が懐かしかった。
そこには私の帰りを待っていてくれる人なんて、誰一人としていないのに。
その場所で私は、幸せじゃなかった。
過去の私は。
今の私は、幸せなはずなんだ。
でもどうしてこんなにも過去に惹かれるのか分からない。


馬鹿な人間だと、私を笑えばいい。
私は、過去の時間の中で幸せになりたかったんだ。
過ぎた時間なんて戻って来ない。
そんなのを悔やむより、今や未来を見るべきだ。
そんなことは分かってる。分かってるんだ。
後悔だらけで、後ろ向きな人生だった。
いつだって私は、過去ばかり見てきた。
生きるのに意味のないことだって分かってても。
馬鹿なんだ。
分かっててずっと、今も、私は過去ばかり見てる。
後ろ向きに生きてる。
それは決して、楽しいことじゃないのに。


それが、今年の夏、分かったこと。
分かっても、どうしようもできない私は、どうしようもなく駄目な人間だと思う。
いつになったら私は未来に希望を持てるんだろう。
私はきっと今も、明日が怖いんだ。